小学生のある時期、北海道の旭川で過ごした。そこは盆地で寒暖の差が激しく、四季の非常にはっきりとした美しい土地だった。
当時事情により、父親と祖母との三人で暮らしていた。父親とは切れ切れに5年ほどしか同居していないのだが、その中でもそこで暮らした2年は正直とてもつらかった。そんな中で偶然手に入れたのは、小さなラジオ付きのカセットテープレコーダー。眠れない夜はそれを抱いて布団を被っていた。ラジオの深夜放送を聴き始めたのもこの頃だったと思う。
当時お気に入りだったのは、ドビュッシーのカセットテープだった。父親は大嫌いだったが、音楽に関しては多大な影響を受けていて、クラシックに馴染んだのもその一つだ。
ただそのドビュッシーはオリジナルではなく、冨田勲（作曲家）がシンセサイザーでカバーしたものだった。そのせいだろうか、貸して欲しいと恐る恐る頼むと、ベートーベン好きな父親はいとも容易く許してくれた。正統派ではないし、きっとほとんど聴いていなかったのだろう。
カセットテープの曲は前奏曲、子供の領分、版画、映像から抜粋した10曲ほど。どの曲も温かで多様な（恐らく使用されていた機材は年代から察してもアナログシンセサイザーだろうと思う）音が立体的に視えてくるような、素晴らしいものばかり。氷点下20度を下回る極寒の夜に月を見上げて聴いた月の光や、台風の夜に聴いた雨の庭は今でも覚えている。
これが初めて聴いたドビュッシーで、原曲は母親の元に移ってから聴いたが、絵画のように色彩豊かな部分はやはり素晴らしかった。
相当聴いたせいでカセットテープは伸び、随分前に処分してしまった。でも本当はまた聴きたいと思う。聴いたらきっと嫌なこともたくさん思い出すだろう。でも、未だに毎年雪が積もる頃になると思い出すのだ。

ちなみにお嬢が現在ゴリウォーグのケークウォークを習っている。四苦八苦する姿を見ながら、上手くおだててそのうちアラベスクでも弾かせようと思う。

うん。ドビュッシー、フラット多くて譜読み面倒なんだよね(笑)